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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)676号 決定 1977年2月18日

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

主文

本件各抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

第一抗告の趣旨

一、第一次申立て

1  原決定を取消す。

2  本件を東京地方裁判所に差戻す。

との決定を求める。

二、第二次申立て

1  原決定を取消す。

2  相手方らは原決定添付別紙物件目録(一)の土地(以下「本件土地」という。)上に建築中の同(二)の建築物(以下「本件建物」という。)の八階以上の部分の建築工事をしてはならない。

3  申請費用及び抗告費用は相手方らの負担とする。

との決定を求める。

第二抗告の理由<省略>

第三相手方らの反論<省略>

第四当裁判所の判断

一抗告理由一について

本件記録及び当庁昭和五一年(ラ)第六六八号裁判官忌避申立却下決定に対する抗告事件記録によれば、抗告人らが本件仮処分申請事件につき原審担当裁判官に裁判の公正を妨ぐべき重大な事由があるとして昭和五一年七月三〇日忌避の申立てをなしたこと(東京地方裁判所同年(モ)第一〇四二一号事件)、右忌避申立事件については同年八月九日申立却下の決定がなされたが、同裁判官は右決定の翌八月一〇日抗告人らの本件仮処分申請を却下する旨の原決定をなしたこと、抗告人らは同月一八日右忌避申立却下決定に対し即時抗告の申立てをし、同事件は当庁に同年(ラ)第六六八号事件として係属し、同年一二月二二日抗告棄却の決定がなされ、その後特別抗告の申立てもなく右決定が確定したことを認めることができる。

ところで、民事訴訟法四二条は、その本文において裁判官に対する忌避の申立てがあつたときはこれに対する裁判が確定するまで訴訟手続を停止することを要する旨規定する一方、その但書において「急速を要する行為」については例外的にこれを行うことができる旨を提定しているところ、ここにいう「急速を要する行為」とは、証拠保全、仮差押、仮処分、上訴に伴う執行停止の決定等、遅滞による損害を避けるため当該裁判を直ちに行い、その裁判内容に従つた結果を緊急に実現する必要のある場合に行われるものをいい、忌避制度の趣旨に照らし、仮処分申請を却下する決定のように当該審級における手続を完結させる一方、決定自体の効果としては何ら法律状態が新たに形成されることのないものはこれに含まれないと解するのが相当である。

もつとも、本件においては、記録によると、相手方らは抗告人らの本件仮処分申請がなされた当時既に本件建物の八階部分の工事を進行中であつたが、原裁判所の本件仮処分申請に対する判断が出るまで自発的に工事の続行を中止することとし、その旨を原裁判所に申し出ていたことが認められ、このような場合、忌避申立てがなされ、これに対する裁判が未確定であつたとしても、審理の結果既に仮処分申請の理由のないことが明らかとなつているとすれば、右のような工事の中止状態を解消せしめ相手方らの損害を避けるため直ちに仮処分申請を却下することが民事訴訟法四二条但書にいう「急速を要する行為」として許されるとの見解も十分成り立ちうるところであり、特に忌避申立ての理由のないことが一見して明らかであるような場合には右のように解するのが公平の観念に合致するものと考えられないではない。そして、原裁判所はこの見解に立つて原決定に及んだものと推認される。しかしながら、仮処分申請の却下決定は終局判決と同様当該審級における手続を完結させるものであつて、正に忌避申立てをなした仮処分申請人が右申立てによつて阻止しようとしたところのものであり、忌避制度の設けられた趣旨からいつて本来民事訴訟法四二条本文に規定された原則を適用すべき筋合いのものである。そして、当該審級における手続を完結させる点は仮処分決定についても異なるところはないにしても、仮処分却下決定の場合、前記のような工事の中止状態の解消なるものはあくまでも右決定に伴う事実上の効果たるにとどまり、右決定自体による法律上の効果としてその実現が図られるものとはいえない点において、仮処分決定につき例外的に前記法条但書の適用を認めるのとは同一に論じえないものがあることを考えると、本件において前記のような事情があるからといつて、仮処分申請を却下する決定をなすことが前記法条但書により許されるものとは解しえないというべく、したがつて原決定はそれがなされた時点においては前記法条に違反するものであつたというほかない。

しかしながら、前記認定のとおり本件においては、抗告人らのなした忌避申立ては理由がないものとして排斥され、その後即時抗告を経てその裁判が確定するに至つているのであるから、現段階においては原決定の右違法はもはや治ゆされたものと解するのが相当であり、したがつて抗告人らの抗告理由一は結局これを採用することができないというべきである。

二抗告理由二について

抗告人らは、抗告理由二において本件仮処分申請に対する原決定の実体的判断の不当性を種々主張するが、<証拠>によれば、相手方飛島建設株式会社は原決定のなされた直後頃前記のように中止していた本件建物の建築工事を再開し、昭和五一年一一月一九日全工事を完了して所定の検査を経た上、その頃相手方株式会社聖文社に右完成建物を引渡したことを認めることができ、右事実によれば、相手方らに対し本件建物の八階以上の部分の建築工事の禁止を求める本件仮処分申請が、右抗告理由二について検討するまでもなくもはや理由のないものとして却下を免れないことは明らかである。

三以上の次第であつて、抗告人らの本件仮処分申請を却下した原決定は結局相当であつて、本件各抗告は理由がないものというべきであるから、これを棄却し、抗告費用を抗告人らに負担させることとして主文のとおり決定する。

(室伏壮一郎 横山長 河本誠之)

<当事者目録>

抗告人 三国一郎

外二〇名

右二一名代理人 楠本安雄

相手方 株式会社聖文社

右代表者 笹部邦雄

相手方 飛島建設株式会社

右代表者 植良祐政

右両名代理人 中垣内映子

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